第70章

沈村遥は歩み寄ると、沈村景の腕にそっと絡みついた。柔らかな声で呼びかける。

「お兄ちゃん、帰ろ」

「温水家のあの女はね、口の悪さで有名なんだ。相手にしなくていい」

沈村景は沈村遥を見た。視線に、複雑な色が混じる。

ずっと思っていた。安田歌子が「本当の娘」として戻ってきたとき、一番かわいそうなのは遥ちゃんだと。

けれど今日を見る限り――どうも、そうでもないらしい。

沈村家。

兄たちと沈村お母さんは早くから食事を用意し、二人の帰宅を待っていた。

「お母さん!」

沈村遥は弾むように駆け込む。

「川人お兄さん! 深お兄さん!」

そのまま兄たちの胸に飛び込み、ぎゅっと抱きついた。...

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