第289章 素敵な夜

 北村辰は自身の身体に生じた異変を敏感に察知していた。それに加え、山田真里が執拗に胸元へすがりついてくる。残された理性が彼に告げていた――こいつは、俺に薬を盛ったのだと。

 彼は必死に冷静さを保とうと努め、掌を返して山田真里を懐から突き飛ばした。

 直後、その大きな手は鉄の万力のように、彼女の細い首を締め上げる。

「山田真里、反吐が出るぞ。よくも俺に薬なんぞ盛りやがったな」

 北村辰の手首に力がこもる。山田真里の顔色が僅かに紅潮し、激しく咳き込んだ。だが彼女は、その拘束から逃れようとするどころか、そっと手を伸ばし、北村辰の腰を這い回るように撫でた。

「辰……飲み過ぎよ。私があなたに...

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