第303章 一匹の犬

 中村純子からもたらされた急報はあまりに唐突で、北村辰はくらりと激しい眩暈を覚えた。

 だが、北村グループを率いる社長として、彼には冷静な判断力が備わっている。辰は少し考えを巡らせてから、母である中村純子に向き直った。

「母さん。その話、なにかの誤解じゃないかな」

「星があの時、女の子と一緒にいるのをこの目で見たんだ。かなり親しげだったし、母さんが心配するような……その、同性愛者ではないと思うよ」

「とにかく、明日あいつに会ってくる。ちゃんと事情を聞いてみるから」

 辰の言葉を聞いて、純子はようやく胸を撫で下ろした。改めて長男を見やる。伊達に兄貴風を吹かせているわけではない、頼りが...

ログインして続きを読む