029.石原絵梨花のために来た

玄関先で、石原幸雄と石原聡美が慌てて二人を中へ促した。

石原幸雄は愛想よく声を張る。

「木村爺さん、夕飯はもうすぐ整います。まずはお掛けになって、少しお待ちください」

そう言うと、彼は石原聡美へ視線を投げた。――上へ行って、石原七緒を呼んでこい。

石原聡美はすぐに察し、きちんと作った笑みを顔に貼りつける。胸の高鳴りを押し殺して挨拶だけ済ませると、足早に階段へ向かった。

今日やって来た二人のうち、年配の男は――つい先ほどまで石原絵梨花にメッセージを送っていた木村爺さん。教育界の大先輩にして国学の巨匠。くしゃみ一つで西京市が揺れる、と冗談半分に語られるほどの、正真正銘「国宝級」の人物だ...

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