036.君は見ていなかった

「……あんた、あのとき戻ってきてたの!?」

石原聡美の顔から血の気が引いた。だが次の瞬間、何かを思い出したように無理やり表情を整え、石原絵梨花を睨みつけたまま、矢継ぎ早に詰め寄る。

「戻ってきてたなら、なんで姿を見せなかったのよ。あのとき私とお父さんがどれだけ――どれだけ辛かったか、分かってるの? 私たちがあんなに傷ついてるのを、見て見ぬふりして……冷たい目で眺めてたってこと!?」

声が大きすぎたのか、通りがかりの人間がちらりと足を止めてこちらを見る。

恥ずかしさが胸を刺した。けれどそれ以上に、聡美の腹の底を冷やしたのは不安だった。手足が冷たくなり、これ以上考えたくない方向へ思考が滑...

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