084.覚えておいた

石原絵梨花は、そいつを追って、薄汚れて奥行きのある路地へ入り込んだ。

この辺りは人通りがほとんどない。男は走りに走って、行き止まりの角まで来たところでようやく足を止め、肩で息をしながら振り返った。

絵梨花は三歩ほど手前で止まる。頬も赤くならず、呼吸すら乱れていない。静かで、平坦で、まるで最初からそうだったみたいに。

無表情のまま若者を一瞥し、手を差し出した。

「返して。……それから、あなたは帰っていい」

今、木村爺さんは陽城にいる。絵梨花は木村爺さんに、三高でちゃんと学校生活を送ると約束した。揉め事も、喧嘩も、できれば避けたい。

若者は胸を叩いて息を整え、絵梨花を睨みつけた。次の...

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