097.六割

その頃、休憩室では――。

カーテンの向こう側で、石原絵梨花は立ち尽くしたまま、なかなか一歩が踏み出せずにいた。

高木政宗があの言葉を口にしてから、外はそれきり沈黙した。言葉にできない静けさ。空気だけが重く、張りつめている。

休憩室の中まで、その緊張が染み込んでくる。外ほどではないにせよ、決して気楽な空気ではなかった。

しばらくして、石原絵梨花は踵を返し、ソファベッドのそばへ戻る。眠っている木村爺さんに一瞬だけ視線を落とし、次いで、脇のテーブルに置かれた銀製エナメルの香炉へ目を移した。

鼻先がわずかに動く。

伽羅の香りが、淡く、それでも途切れずに押し寄せてくる。ぼんやり霞んでいた頭...

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