第10章

時間が、這うように遅くなった。硝煙の立ち込める空気の中を、弾丸が直樹に向かって甲高い音を立てて飛んでいく。そして桜は、その軌道へとまっすぐに駆け込んでいた。彼女が父親だと信じる男と銃の間に、その小さな体を割り込ませて。

「パパ、危ない!」と彼女は叫んだ。

『まただ。もう二度と子供を失うわけにはいかない』

考えるより先に、私は桜もはや由美子ではなく、全くの別人だとわかった少女に向かって身を投げ出し、彼女を弾道から突き飛ばした。代わりに銃弾が私の肩を貫き、灼けるような痛みが腕を駆け下りる。シャツは瞬く間に血で染まったが、私の下で桜は無事だった。

「ママ! 血が出てる!」と彼女は息を呑...

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