第2章

拷問のような時間が、這うように過ぎていく。

私は隅で体を丸め、地下室の小さな窓から差し込む月光を眺めていた。その光は、黴の生えた石壁に青白い銀の縞模様を落としている。身じろぎするたびに鎖がカチャリと鳴り、自分が囚われの身であることを絶えず意識させられる。

『考えろ、絵里。本当に何があったのか、思い出すんだ』

目を固く閉じ、粉々になった記憶の奥深くへと無理やり意識を潜らせた。だが、失われた五年間の記憶を掴もうとするたびに、割れたガラスのような痛みが頭蓋を切り裂くのだった。

「お願い……」こめかみに手のひらを押し当て、私は囁いた。「一体、私に何が起きたっていうの?」

瞼の裏で、断片的な映像が明滅し始める――脈絡がなく、暴力的で、恐ろしい光景の数々が。

白い大理石に飛び散る血飛沫……

怒りに歪む男の顔、声にならない叫びを上げる口元……

叫びすぎて掠れた、自分の声……

線香の香りと混じり合う、火薬の鼻を突く匂い……

そして、その全ての光景の向こうで、二つの顔が脳裏に重なり続けた。悟の穏やかな微笑み、愛に満ちた温かい茶色の瞳……だが、そこへもう一つの顔がせり出してくる。もっと暗く、もっと怒りに満ち、もっと危険な顔が。

「違う……違う、そんなはずない……」激しさを増す痛みに、私は頭を抱えた。「悟は優しい。私を愛してくれてる。でも、このもう一人の男は……この怒り狂った男は……一体誰なの?」

『どうして私はどこかへ引きずられていく記憶があるの? どうして結婚式で血を見たの? 悟が私を傷つけるはずなんてない……』

しかし、その記憶はあまりにも生々しかった。恐怖、痛み、裏切り......その全てが、美しい結婚式のどんな思い出よりも、ずっと現実味を帯びていたのだ。

階段から聞こえた微かな軋み音に、私は凍りついた。

足音。

階段の上の暗がりから人影が現れた。直樹ではない。

現れたのは女の人だった。年は二十五歳くらいだろうか。長い黒髪に、その顔には不釣り合いなほど年老いて見える、憂いを帯びた瞳。オリーブ色の肌、ふっくらとした唇、表情豊かな目元、典型的な三角島風の美人だが、その慎重な表情の裏には、何かに取り憑かれたような影が潜んでいた。

彼女は小さな籠を提げ、神経質そうに辺りを見回してから近づいてくる。その動きは、危険に慣れた者特有の、熟練した忍び足だった。

「しーっ」彼女は唇に指を当て、囁いた。「声を出さないで。私は梨乃、直樹の従姉妹よ」

私は身をこわばらせ、さらに壁際に体を押し付けた。「どうしてあなたを信用できるっていうの?」

梨乃は私の鎖が届かないギリギリの場所に膝をつき、籠を置いた。中には、魔法瓶に入った温かいスープと、清潔な衣服、それに医療品が見えた。

「だって……」梨乃は私の視線を避け、かろうじて聞き取れるほどの声で言った。「死よりも残酷な真実もあるわ。でも、今はそれを話す時じゃない」

「どういう意味よ、それ!」絶望に私の声がひび割れた。「教えてよ、悟はどこにいるの? 彼はまだ生きてるの?」

梨乃の表情が複雑なものに変わった。その顔に、憐れみにも似た感情がよぎる。

「高橋悟……」梨乃は言葉を慎重に選びながら、一呼吸置いた。「あなたの記憶の中の彼が、本当に正しい姿だと、確信できる?」

その問いは、物理的な一撃のように私を打ちのめした。「何の悪趣味な冗談よ! 悟を覚えてるに決まってるじゃない! 私の夫なんだから!」

「心はね、自分を守ろうとするとき、とんでもない悪戯をすることがあるの」梨乃は魔法瓶をこちらへ押しやりながら、静かに言った。「特に、トラウマを負った後なんかは」

私は彼女を睨みつけた。胸の中で、混乱と怒りがせめぎ合っている。「あなたたち、みんな狂ってる。悟と私は結婚したばかりなのよ。全部覚えてる、教会も、花も、彼の笑顔も……」

梨乃は何か言い返そうとして、寸でのところでやめた。彼女はためらいながら、上着に手を入れる。

「これを見せるべきじゃないんだけど」彼女は呟いた。「でも、こんなあなたを見てると……神様、お許しください」

彼女が取り出したのは、色褪せ、経年で黄ばんだ一枚の写真だった。薄暗い蝋燭の光の中でも、二人の子供が写っているのが見て取れる。私の緑色の瞳と黒い巻き毛をした八歳くらいの女の子と、一人の男の子だ。二人は庭のような場所に立っており、背景にはオリーブの木が見える。

だが、男の子の顔はペンで激しく掻き消されていた。黒々としたインクの跡がその顔立ちを覆い隠している。残っているのは輪郭だけで、そのシルエットの何かが、私の血を凍りつかせた。

「これは十五年前の写真」梨乃の声は震えていた。「この男の子、覚えてる?」

私は震える手で写真を受け取り、食い入るように見つめた。その小さな女の子は間違いなく私だ。手首の母斑も、片足を少し内側に向けて立つ癖も、見覚えがあった。

しかし、男の子は……

掻き消された彼の顔に意識を集中した瞬間、激痛が頭蓋の中で爆発した。

「あっ!」私は身を二つに折り、頭を抱える。夥しいイメージが、脳裏に洪水のように押し寄せてきた。

子供の笑い声が、悲鳴に変わる……

誰かが私を追いかけ、オリーブ園を駆け抜ける……

古い石壁の陰に隠れて、すすり泣く……

男の子の声が私の名前を呼んでいる。でも、その口調が……口調がおかしい。愛情のこもったものではない。独善的で、恐ろしい。

「この……この男の子……」私は喘いだ。痛みで視界がぼやける。「彼の目が……どうして、怖いって感じるの?」

梨乃は素早く写真をひったくると、上着にしまい込んだ。

「私がここに来たことは忘れて」彼女は立ち上がり、去り際に焦ったように言った。「直樹が全部話してくれるわ。でも、お願いだから覚えておいて、忘れることは、時として一種の防御なのよ」

「待って!」私は必死に手を伸ばしたが、鎖に阻まれて届かない。「何があったのか教えて! あの男の子は誰なの?」

しかし梨乃はすでに階段を上っており、その足音は静寂の中へと消えていった。

私は一人、蝋燭の光の中で、彼女が消えた場所をじっと見つめていた。

『防御? 何からの防御だっていうの?』

招かれざる記憶の断片が、次々と浮かび上がってくる。

裸足でオリーブ園を走り抜け、枝がドレスを引き裂く……

古い石造りの建物の影に隠れ、心臓が激しく脈打つ……

夕闇に響き渡る男の子の声。「絵里! 絵里、どこにいるんだ?」

私を絵里と呼ぶのは家族だけだ。私を本当に知っている人だけ。

なのに、なぜその声は私を逃げて隠れたい気持ちにさせるのだろう?

「あの男の子……」私は自分に囁きかけた。「『絵里』って呼んでた……家族しかそんな風に呼ばないはずなのに……」

『でも、もし悟が私の愛する人なら、なぜ彼のことを考えると怖くなるの? もし直樹が敵なら、どうして由美子は私のことをママと呼ぶの?』

上の階のどこかから、重い物が落ちるような音がして、私は凍りついた。

足音。今度は本物だ。ゆっくりと、慎重に、地下室のドアに向かってくる。

音が近づくにつれ、心臓が肋骨を激しく打ちつけた。一歩一歩が、まるで死神が階段を下りてくるかのように、抗えない運命の響きを伴っていた。

静寂の中、ドアの錠前がガチャリと音を立てた。その音は、不自然なほど大きかった。

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