第8章

腕の中で、梨乃はまだ温かかった。その血が私の手を染める間にも、頭上では混沌とした物音が鳴り響いている。外では車のエンジンが唸り、警察無線が雑音を立て、一階では重い足音が響き渡っていた。

直樹が乱暴に私の腕を掴んだ。「行くぞ、今すぐだ!」

梨乃の安らかな顔を見下ろし、彼女が遺した言葉を思い出す。『私の過去に関する本当の答えが知りたければ、教会の祭壇の下を調べなさい』

「教会よ」私は唐突に立ち上がりながら言った。「教会へ行く」

「何だと? だめだ、絵里。空港に向かうんだ......」

「梨乃が教会に答えがあるって言ってたの!」私の声は彼の抗議を遮った。「私の本当の家族について、あ...

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