第8章

T大学病院の特別病棟、その廊下に設置された長椅子に腰を下ろし、私は指先で無意識に膝を軽く叩いていた。

彼が落下してきたクリスタルシャンデリアから私を庇ったのは、紛れもない事実だ。

背中と腕の数カ所に及ぶ裂傷、頸椎の軽度損傷、右肩の縫合手術——医師は平床勝人の怪我の状態を詳細に説明してくれた。

「中村様」

紗織がそっと声をかけ、コーヒーを手渡してくる。

「もう二時間もここでお待ちです。一度戻って休憩されては?」

私は首を横に振った。

「せめて手術が終わるまでは」

「それが、私のすべきことだから」

三時間後、執刀医が手術室から出てきて、手術の成功を告げた。平床は回復...

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