第2章

真希視点

翌朝、潤が三人を引き連れて入ってきた。

二十代くらいの男性二人と女性が一人。全員が黒田画布のロゴが入った、作業用Tシャツを着ている。腕にはラップトップやタブレットを抱えている。

「うちのチームです」と潤が言った。「野口雄馬がデータ分析、山下恵梨がユーザー体験、間宮誠人が技術実装を担当しています」

彼らは私に頷く。目元まで笑っていない、プロフェッショナルな笑顔だ。

彼らが私のことを誰なのか、正確に知っているのがわかる。元妻。二年前、姿を消した女。

野口雄馬がラップトップを取り出し、プロジェクターに接続した。「青木さんの提案を我々のAIモデルで分析しました。インタラクティブなインスタレーションは、静的な絵画よりもエンゲージメントが37%高いという結果が出ています。デジタルとの比率を60%に引き上げるべきです」

壁一面に数字とグラフが映し出される。

胸が締め付けられるような感覚がした。

「黒田さん」私は平静を装って言った。「アートは数字のゲームではありません。これらの絵画には、あなたのアルゴリズムでは測定できない感情的な価値があるんです」

潤は背もたれに寄りかかり、眉を上げた。「感情? 青木さん、感情は測定可能ですよ。心拍数、瞳孔の拡大、皮膚電気伝導。すべてデータポイントです」

「それは身体の反応であって、感情そのものではありません」私は身を乗り出した。「本当のつながりというのは、一枚の絵の前に立って、自分の過去や未来、あるいは人生でずっと避けてきた何かを見ることです。あなたのセンサーではそれは捉えられません」

「聞こえはいいです」彼が私をからかっているのか、まだ判断がつかない。「だが私が必要なのは哲学ではなく、実際に実行可能なものです」

私たちは見つめ合った。

彼のチームは居心地が悪そうだ。

先に折れたのは私だった。彼が正しいからではない。この契約が必要だからだ。

「わかりました。インタラクティブ作品は加えます。でも、メインギャラリーは伝統的な絵画のまま。そこは議論の余地はありません」

潤は私を見つめている。彼の顔に何かがよぎった。

やがて、彼は頷いた。「それでいきましょう」

結婚して八ヶ月の頃、私たちはこんなふうに喧嘩をした。

アパートに抽象画を飾りたかったのだ。

「色がデザインと合わない」潤はキャンバスを見て眉をひそめた。「デザイナーはニュートラルな色調だけって言ってたろ」

「私はこの絵が好きなの」私は額縁を強く握った。「ここが、少しだけ空っぽじゃなくなる気がするから」

「寒いなら、サーモスタットを調整すればいい」

「潤!」

「真希」彼は心底不思議そうな顔で私に向き直った。「ただの絵だ。どうしてそんなに大事なんだ?」

私は額縁を下に置いた。

「ただの絵じゃないの。これは私の最初の個展に出した作品。私の仕事で、私が大切にしているもので、私が――」

「わかってる」彼の声が静かになった。「アートが君にとって大事なのはわかってる」

「じゃあ、どうしていつもそうやって軽くあしらうの?」

長い沈黙。

それから彼は歩み寄ってきて、額縁の端に触れた。「わかった。飾ろう」

「本当に?」

「ああ」彼の表情には、私には読み取れない何かがあった。「理由なんていらないものも、あるのかもしれないな」

その絵は、離婚するまで私たちの寝室に飾られていた。

三日目の夜、私たちはまだ十時になってもギャラリーにいた。

中村知子は何時間も前に帰った。今は私と潤だけだ。

照明のことで言い争っている。

「自然光、暖色系のトーンで」と私は言う。「アートは質感や色彩の変化を見せるために、温かい光が必要なの」

「プログラム可能なLEDだ」と潤が反論する。「時間帯や来場者数に応じて自動で調整される。より良い鑑賞体験を提供できる」

「より良い?」私は思わず笑いそうになる。「潤、アートは最適化するものじゃない」

「なぜだ? テクノロジーを使って、人々がアートをより良く見て、より良く理解する手助けをしてはいけない理由でもあるのか?」

「最適化したら、それを本物にしているものが死んでしまうからよ」

「それはなんだ?」

「ごちゃごちゃした部分」と私は言った。「欠点。あなたのコードには収まらない、正直な部分よ」

潤はじっと私を見つめた。

そして言った。「君は相変わらず頑固だな」

私は動きを止めた。

彼は「青木さん」ではなく、「君」と言った。

「いや……」彼は我に返る。「その頑固さは君の世界では通用するのかもしれない。だがビジネスでは――」

「わかってる」私は彼の言葉を遮った。「ビジネスは妥協だっていうことでしょう。じゃあ妥協しましょう。暖色系のLED、プログラム可能、でも手動制御も残す」

彼は頷いた。「それでいこう」

沈黙。

気まずい沈黙。

「もう遅い」潤は自分の荷物をまとめる。「じゃあ、また明日」

「また明日」

彼をドアまで見送る。

彼の車は通りの向かいに停まっている。

ドアを閉めて中に戻ったが、彼の車のエンジンがかからない。

窓辺に移動して、外を見る。

潤は運転席に座り、ハンドルを握ったまま、うなだれている。

彼は十五分間、そうしていた。

そして、車を走らせて去っていった。

無意識に、自分の指が薬指を探っていた。

そこには何もない。もうずっと前から。

でも、時々まだ忘れてしまう。

翌朝、中村知子が小包を持ってきた。

「真希さんにです。送り主の住所はありません」

開けてみる。

一冊の本だった。

ハードカバーで、深い赤色の布地に金の箔押し文字。『飛鳥傑作集』。

私の手は震えていた。

三年前、青木ギャラリーでオークションがあった。この本はその出品物の一つだった。

私は隅の方に立って、入札額が上がっていくのを見ていた。

最終価格、二百三十万。

「手が出ないな」隣にいた潤に囁いた。「でも、なんて美しいんだろう」

彼はただ頷くだけで、何も言わなかった。

今、それがここにある。

最初のページを開く。中にメモが挟まっていた。

彼の筆跡だ。

「アートは数値化できないかもしれないが、君がこれを愛していたことは覚えている」

名前はない。

でも、誰からかはわかっていた。

中村知子が覗き込んでくる。「誰からの? って、それ飛鳥の本じゃない? 絶版だと思っていたけど?」

本を閉じて、胸に抱きしめる。

「さあ、誰でしょう。たぶん、アーティスト仲間じゃないかしら」

でも、一日中、心は上の空だった。

潤がこの本を探し出したことを想像してしまう。

どうやって見つけたんだろう?

いくらかかったんだろう?

どうして今、送ってきたの?

私たちはもう、終わったはずなのに。

その夜、私は一人ギャラリーで本のページをめくっていた。

飛鳥のカラーフィールド・ペインティング。巨大な色の塊、滲み合う輪郭、かろうじて見える色の層。

飛鳥の絵は人を泣かせると言う。

色が魂をまっすぐに貫いてくるような、何かがあるのだ。

一枚の絵を見つめる。深い赤が黒へと溶けていく。傷のよう。夕焼けのよう。忘れられない何かのように。

気づかないうちに、涙がこぼれていた。

絵のせいじゃない。

私がそれを愛していたことを、覚えていてくれた人のせいで。

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