第113章

冷たい消毒液が傷口に触れ、ちくり、と小さな痛みが走った。

羽島浩介は、薬を塗る吉崎直子の横顔を見つめる。胸の奥で荒れていた暴力的な衝動が、なぜだか少しずつ撫でられていくのを感じた。

「吉崎直子」

不意に呼びかけた瞬間、心臓が落ち着かずに跳ねる。

「……なに?」

「さっきの男……本当に、知らないのか」

羽島浩介の声には、気づかれない程度の脆さが混じっていた。

その執拗な確認の裏にある感情を察したのか、吉崎直子は手を止め、顔を上げる。まっすぐに彼を見て、言葉を区切るように告げた。

「羽島浩介。私は、あの人を知らない」

「もし誰か分かっていたなら、あんなふうに好き勝手に出入りさせ...

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