第115章

「喜太郎……ねえ。許してくれなくてもいい。でも、一杯だけ……一緒に飲んでくれるよね?」

吉崎由紀は涙を溜めた目で、恐る恐る顔を上げた。

その角度は、鏡の前で何度も練習したものだ。自分の顔立ちの『いちばん得する見え方』を計算し尽くし、ひどく可哀想に見えるように。

羽島喜太郎は、その表情を見て眉間の皺をさらに深くした。

同情したからではない。単純に、面倒くさい。

本音を言えば酒なんて飲みたくない。だが、由紀の性格も知っている。ここで断れば、今日一日この話を延々と引っ張るだろう。

――そして、彼女の口から出てくる「吉崎直子」の話。

喜太郎は唇をきゅっと結び、差し出されたグラスを受け取...

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