第144章

吉崎直子はこくりと頷き、ケーキを手に取って口へ運ぼうとした。だが、その瞬間――羽島浩介がまた、不意に口を開く。

『直子。本当に……何もないのか? それとも、俺に隠してる?』

唐突な詰問に、直子は思わず固まった。顔を上げて彼を見る。

案の定、男の瞳の奥には濃い影が沈んでいた。

さっきの答えでは、納得していない。

その表情を見た途端、胸がひゅっと縮む。直子は視線を落とした。

本当は、話すべきだ。羽島浩介を信じるべきだ。

けれど――この件は広がりが大きすぎる。しかもリチャードは、どう見ても善人じゃない。

もし、直子が指示どおりに動かなかったと知られたら。

母に危害が及ぶかもしれな...

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