第172章

吉崎直子は一瞬、息を呑み、顔を上げて彼を見た。

男の表情は異様なほど真剣で、口にした言葉は揺るぎなく、落ち着いていた。

『大丈夫だ。何も起きない。俺が保証する』

たったそれだけの一言なのに、なぜか直子の胸のざわつきが、すうっと引いていく。彼女は小さく頷いた。

それからしばらく、車内の空気は幾分やわらいだ。

三十分後、車は無事に御景荘園へ戻り、静かに停車した。

羽島浩介が直子に声をかけようとした、その時だった。彼女はもう眠っている。

ただ、眠りは浅い。シートにもたれた頭はうなだれ、眉間には深い皺。全身から不安が滲み出ているようだった。

その様子に、浩介は胸の奥で小さく息を吐く。...

ログインして続きを読む