第29章

車内。

村田英子は手提げの礼箱を吉崎直子へ差し出した。

「この服、吉崎由紀なんかに着る資格ありません。吉崎様が受け取ってください」

吉崎直子は唇の端をわずかに上げる。

「要らない。あの子が目を付けた物なんて、触りたくもないわ。私が欲しい限定のドレスだけ、きちんと用意して」

村田英子は頷き、続けてため息を落とした。

「吉崎様がこの2年、本部のことに口を出さず穏やかに暮らしていると思っていました。なのに……本家があんな扱いをするなんて」

自分のために憤るその様子が、吉崎直子には可笑しかった。

「どうして、私みたいな人間が吉崎家の人だと思うの?」

村田英子はきょとんとして、次の瞬...

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