第79章

吉崎直子は、目の前のワイングラスに揺れる淡い赤の酒を見つめ、そっと持ち上げて鼻先で香りを確かめた。

飲まないまま、置く。

その瞬間、食堂の空気がふっと凍りついた。

吉崎由紀はそれを目にし、瞳の奥に怨嗟めいた色を一瞬だけ走らせる。だが、すぐに消した。

由紀は立ち上がり、小さな椀を手に直子の方へ運ぶ。笑顔を貼り付けて言った。

「これ、食べてみて。酒醸湯円」

「直子が一番好きだったでしょ。今日はね、わざわざ料理人にお願いして、おばあちゃんが昔作ってたやり方で作ってもらったの。ほら、食べて。覚えてる味かどうか、確かめてみて」

由紀の目の底に潜む、ほんのわずかな緊張。直子はそれを横目に捉...

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