第85章

男は身体にぴたりと合った仕立てのいいスーツをまとい、端正な顔立ちのまま、すらりとした脚でこちらへ歩いてきた。

その瞬間、吉崎由紀の胸に怒りがぼうっと燃え上がる。

考えるまでもない。

あのクズ、吉崎直子を見舞いに来たに違いない。

そう思っただけで、嫉妬の火はさらに勢いを増した。吉崎由紀はとっさに近くの柱の陰へ身を潜め、こっそりとその姿を追う。

幸い、入院棟の出入りは多い。向こうも彼女には気づかなかった。

だが、吉崎由紀の予想に反して、羽島喜太郎は入院棟の中へ入らず、入口の前で足を止めた。

それに気づいた瞬間、吉崎由紀ははっと目を見開く。

どういうこと?

直子のところに来たんじ...

ログインして続きを読む