第88章

『帰る途中よ。さっき退院したところ』

吉崎直子の声は、ひどく静かだった。波ひとつ立たない、凪いだ水面のように。

その冷え切った態度が、かえって吉崎広峰の怒りに油を注いだのだろう。次の瞬間、受話器の向こうで怒鳴り声が爆ぜた。

『退院したんなら、さっさと表に出て釈明しろ!』

『ネットの記事を見てみろ! 由紀がどれだけ叩かれてると思ってるんだ?! 姉のおまえが、何も感じないわけじゃないだろう!』

『それだけじゃない。今日のうちの株価は寄り付きから下がりっぱなしで、もうストップ安だ! 全部おまえのせいだ!』

理不尽そのものの責め立てを聞くうちに、吉崎直子の顔色はみるみる冷えていった。口元...

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