第9章

大型モニターの左下に、ひどく目立たない小さなマークがあった。アルファベットの「S」。

吉崎直子の呼吸が、ほんのわずかに止まる。

S様――。

ハッカー界で、何年ものあいだ彼女にとって唯一「対等」と呼べる相手。

三度の大会。直子は二度優勝し、三連覇を確信していた最後の年に、S様が彗星のように現れた。差は、わずか0.01秒。限りなくゼロに近い僅差で、栄冠を奪われた。

それ以来、S様はどんな場面でも彼女と競う機会を逃さない。直子が引退して懸賞案件を受けなくなったあとでさえ、執念深く個人アカウントを嗅ぎ当てては付きまとってくる。まるで幽霊だ。

吉崎直子が偽装IPに切り替えたのは、静かに暮ら...

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