第89章 早く始めろ

「早く始めろ」

「痕跡は残すな!」

「はい、北条さん」

 何人かの話し声が耳に入る。

 葉山ゆうは重たいまぶたをどうにか持ち上げた。視界に飛び込んできたのは、マスクをした医師。その手にはぎらりと光る――メス?

 葉山ゆうはひゅっと息をのんだ。

「やめて!」

 もがきながら叫んだ瞬間、両手足を縛られていることに気づく。

 必死に身をよじる。手首も足首も擦れて血がにじんでも、拘束はびくともしない。

「放して!」

「無駄な力は使うな」

 老いてなお冷えきった声が響いた。

 葉山ゆうが顔を向けると、そこには六十代後半から七十代ほどの老人が座っていた。杖を手にし、残酷な目で彼女...

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