第10章 離婚しないから、じわじわとお前を苦しめられる

「きゃああっ! 人殺し! 助けてっ!」

林田知代は首元に触れ、ぬるりとした温かい液体で手が濡れた瞬間、喉が裂けるような悲鳴を上げた。

死への恐怖が、彼女に信じがたい力を与える。

もう普段の取り繕った体面など構っていられない。日向茜を乱暴に突き飛ばし、重たい金属扉をどんと押し開け、そのまま一目散に逃げ出した。

ハイヒールが床をきいっと引っかき、支離滅裂な助けを求める声とともに、足音はみるみる遠ざかっていく。

やがて防火扉が、ばたんと閉まった。

階段室には再び、薄暗さと死んだような静寂だけが戻る。

林田知代の無様に逃げ去る背中を見送った瞬間、日向茜の張りつめきっていた神経が、ぷつり...

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