第49章 太郎

「すぐ行く」

日向茜はそれだけ電話口に告げると、そのまま通話を切った。

ソファの肘掛けに手をついて立ち上がり、洗面所へ向かう。

冷たい水を両手に受け、そのまま顔へ叩きつけた。

氷のような水が神経を刺し、ほんの少しだけ意識がはっきりする。

何があっても――それでも母には、生きていてほしかった。

30分後。

タクシーは別荘の大きな鉄門の前で止まった。門には鍵がかかっておらず、わずかに隙間が開いている。

日向茜は料金を払い、車を降りて門を押し開けた。

母屋の扉は開きっぱなしで、50代ほどの女中が雑巾を手に、玄関の下駄箱を拭いていた。

日向茜の姿を見た瞬間、その女中はぴたりと動き...

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