第84章 足りない

真田修一は七十九階のパノラマ窓の前に立ち、指の間に特注の葉巻を挟んでいた。薄暗い室内で、火種がちらちらと明滅する。

窓の外では稲妻が雲を引き裂き、豪雨が叩きつける。流れ落ちる水が防弾ガラスを洗い流していった。

杉山遠は三歩ほど距離を置き、最新のブリーフィングを手にしている。

「真田社長。警察側の内通者から連絡です。木下玲のアパートは荒らされていました。遺書は目立つ場所に置かれていたそうです。筆跡鑑定は一致。ただ、極度の恐怖下で書いた文字は線が乱れやすいのに、この手紙は整いすぎています。現場に争った痕跡もありません」

杉山遠は言葉を切り、真田修一の横顔をうかがった。

「常識的に考えて...

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