第86章 鍵がかかっていない扉

日向茜はカーペットに半身を投げ出したまま、ぼんやりと顔を上げた。

「……あの人が、あなたを寄越したの?」

林田知代は足を止め、砕いたダイヤがびっしり嵌め込まれた赤いハイヒールを、わざとらしく見せつける。

「ほかに誰がいるの? 鳳凰の苑の最上階に入れるのは、修一兄さん以外にいないでしょ」

大きな赤の箔押し招待状を、日向茜の頬の横へぽいと投げ捨てた。口元は、悪意を隠す気もない。

「来月の初八、修一兄さんと私、婚約するの。あなたみたいな縁起の悪いのを見て目が汚れるのは嫌だって。だから私が直々に届けに来たわけ」

そして、甘ったるい声で言い添える。

「忘れずに来てね、お姉さん」

――も...

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