第91章 死ぬほうを一つ選べ

日向沢宏が声を枯らして叫んでも、真田修一は微動だにしなかった。

焦りで頭が真っ白になっている日向沢宏は、真田修一の瞳の奥に渦巻く暗色にも気づかないまま、なおも縋りつくように言い募る。

「知代は小さい頃から身体が弱いんだ! 発作が出て救急処置が遅れたら死ぬ! どうすればいいんだ、修一……お前、見捨てる気か!」

少し離れた場所で、林田希秋がカシミヤのコートをきつく羽織り、車の脇に立っていた。

夫とは対照的に、彼女は泣き叫びもしない。ただ、遠くの海面に浮かぶ黒い貨物船を、感情の抜け落ちた目で見つめている。

真田修一は日向沢宏を一瞥し、冷えた声で言った。

「……お前の娘は、必ず連れ戻す」...

ログインして続きを読む