第92章 訣別

「殺さないで!」

しゃがれた悲鳴が船倉を裂いた。林田知代は甲板から顔を上げ、錆びた鉄板に爪を立てるようにして、銃口から遠ざかる方向へ必死に這いずった。

「日向茜よ!」這いながら、みっともなさも構わず日向茜を指さす。

「真田修一が愛してるのはあの女! あの女を殺して! 撃って、撃ち殺して!」

船倉が、ふっと音を失う。

どん、と波が船体を叩く轟きの中でも、女のヒステリックな叫びだけが耳膜を刺した。

男が眉をわずかに上げ、引き金にかかった指の力を少し抜く。

日向茜はコンテナにもたれ、形も崩れた林田知代を見つめた。乾いた唇を引き、くつ、と笑う。

「最愛の人」云々が可笑しいわけじゃない...

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