第2章
手の中にある黄ばんだ婚約書を、私は見つめていた。
あの頃、お母さんからこの婚約書を見せられた時、私はまだ森本翔が買ってくれた安物のネックレスに夢中だった。
「梨沙、この子は三浦家の息子さんよ」彼女は言った。「あなたたちの婚約は、真理子さんと私とで二十年前に決めたことなの」
あの時の私は、なんて言っただろうか。「お母さん?婚約?私には翔がいるのよ――愛し合ってるの!本物の愛よ!」
私はその婚約書を、引き出しの奥に突っ込んだ。あの頃の私の頭の中は森本翔でいっぱいだった――彼の笑顔、彼の約束、一緒に小さな家庭を築こうなんていう甘い言葉のすべてで。私たちは一緒に年を取るのだと思っていた。彼が私を裏切るなんて、夢にも思わなかった。
なんて世間知らずで。なんて、どうしようもなく愚かだったんだろう。
もしあの時、お母さんの言うことを聞いていたら。もしあの婚約書を真面目に受け止めていたら。もしかしたら、すべてが違っていたのかもしれない。ショッピングセンターで働くことも、安部莉緒に出会うことも、彼女に嵌められることもなかったかもしれない。両親だって、まだ生きていたかもしれない。
三浦邸は、まるでゴシック小説から抜け出してきたかのように、私の目の前にそびえ立っていた。
八年前の私なら、このすべてに気圧されていただろうな、と私は思った。
私がノックするよりも前に、重厚な正面扉が開き、アイロンのきいた黒いスーツを着た品の良い初老の男性が現れた。
「佐藤様でいらっしゃいますね?わたくしは執事の小林と申します。当主の三浦浩二様がお待ちかねでございます」
「実は」と私は言った。「先に、光くんにお会いしたいのですが」
小林さんの落ち着き払った態度が、わずかに揺らいだ。「お嬢様、光様の容体は――」
「五年もの間、昏睡状態にあることは存じています。人命を救おうとして負傷されたことも」私は彼の目をまっすぐに見つめた。「私がここにいるのは、彼のためなのです」
小林さんは一瞬私を値踏みするように見つめ、それから頷いた。「こちらへどうぞ」
小林さんは私を大階段へと導き、三家族は住めそうなほど長い廊下を進んでいった。
彼は重厚な樫の木の扉の前で立ち止まり、優しくノックしてから扉を押し開けた。
「光様、お客様がお見えです」
寝室は広大だったが、午後の陽光が満ちていて、どこか親密な雰囲気があった。そしてその中心に、光くんが横たわっていた。
意識がなくとも、彼は美しかった。力強い顎のライン、枕に少し乱れた黒髪、育ちの良さを物語る貴族的な顔立ち。生命維持装置が、規則正しいビープ音を鳴らしている。
私はベッドの傍らの椅子に腰を下ろし、彼の手を取った。彼の肌は驚くほど温かかった。冷たくて、生命感がないものだとばかり思っていた。でも彼は、ただ……眠っているだけで、確かに生きていた。
「安らかなお顔ですね」私は呟いた。
二十分後、私は板張りの書斎にいた。三浦浩二はマホガニーのデスクの後ろに座っていた。七十八歳にしてなお威厳を放っている――完璧に整えられた銀髪、すべてを見通すような鋭い瞳。
「佐藤さん」彼は革張りの椅子を指し示しながら言った。「小林から、光の世話役の職に興味があると聞いているが」
私は言った。「三浦さん、雇用の話の前に、私がここに来た本当の理由を知っていただくべきだと思います」
彼の眉がわずかに上がった。「ほう?」
私は続けた。「五年前に、ご子息は人命を救おうとして負傷されました。彼は英雄です」
三浦浩二の落ち着きに、わずかなひびが入った。
「三浦さん」私はバッグに手を入れながら言った。「お見せしたいものがあります」
私はその黄ばんだ紙切れを取り出し、彼のデスクの上に置いた。三浦浩二は身を乗り出し、色褪せたインクに目を凝らした。
「婚約書です。二十年前に、亡くなられた奥様の三浦真理子様と、私の両親が署名したものです」私は注意深く彼の顔を観察した。「私と、光くんとの婚約を取り決めるものです」
三浦浩二の顔が真っ白になった。彼は慌てて老眼鏡を探し、その書類を検分した。認識が追いついた瞬間が、見て取れた。
「これは……」彼は息をのんだ。「真理子が佐藤家の話をしているのは覚えているが、ただの世間話だと思っていた。まさか……」
私は身を乗り出した。「三浦さん、私はこの約束を果たすために参りました。光くんと、結婚したいのです」
「お嬢さん」三浦浩二はゆっくりと言った。「自分が何を言っているのか、分かっているのかね?光は意識がない。医者たちは……」
私は答えた。「自分が何を言っているか、重々承知しております。私はご子息と結婚し、彼が目覚めるその日まで、お世話をし、お守りしたいのです」
砂利がタイヤに踏みしだかれる音が、私たちの会話を遮った。窓の外を見ると、赤い車が私道をとんでもないスピードで駆け上がってくるのが見えた。
外で車のドアが乱暴に閉まる音がし、続いて怒鳴り声が聞こえた。玄関ホールから小林さんの困惑した声が響くのを聞き、私は暗い笑みを浮かべた。
「三浦さん」私はゆっくりと立ち上がりながら言った。「今から、私がこの家の名前の庇護を必要とする、本当の理由に会うことになります」
書斎の扉が、勢いよく開け放たれた。最初に飛び込んできたのは森本翔で、まだスーツを着たまま、怒りで顔を真っ赤にしていた。
安部莉緒が後に続いた。彼女は黒いドレスに着替えていた――安部莉緒は、芝居がかった衣装をまとう機会を決して逃さない女なのだ。
「梨沙!」森本翔の声が壁に跳ね返った。「てめえ、ここで何してやがる!」
三浦浩二はすっくと立ち上がった。「失礼だが、ここは私有地だ」
安部莉緒の笑い声は、ガラスのように鋭かった。「三浦さん、残念ですけど、佐藤梨沙に騙されていらっしゃるのですよ」
「莉緒」私はにこやかに言った。「喪服がよくお似合いね。誰かのために練習してるのかしら?」
彼女の笑みが、一瞬揺らいだ。「梨沙ちゃん、あなた、明らかに精神が参ってるのよ。八年も刑務所にいたせいで、判断力が鈍っちゃったのね」
「私の判断力ははっきりしているわ」私は答えた。そして三浦浩二の方を向いた。「三浦さん、この者たちが、私の家族を破滅させた人間です。森本翔は、私が犯してもいない罪で刑務所に送られるよう、偽証をしました。そして安部莉緒こそが、その罪を実際に犯した人間です」
森本翔の顔が紫色になった。「気でも狂ったのか!梨沙、お前はあの火事で三人殺したんだぞ!」
「私は誰も殺していない」私の声は、凍てつくように低くなった。「でも、誰かが殺した。私が刑務所で腐っている間、八年間も血塗られた金で生きてきた誰かがね」
安部莉緒が芝居がかった様子で一歩前に出た。「梨沙ちゃん、刑務所が大変だったのは分かるけど、そんな陰謀論は……ねえ、あなたに必要なのは助けであって、金持ちの旦那様じゃないわ」
「三浦さん」私は二人を無視して言った。「今日、結婚式を挙げたいのですが」
森本翔が爆発した。「ふざけんじゃねえ!梨沙、植物人間と結婚なんかできるか!何のつもりだ、この金目当ての汚ねえ芝居は!」
「芝居?」私は笑った。
三浦浩二は、このやり取りを計算高い目で見つめながら、微動だにしなくなっていた。
「私は、私が出会った中で最も高潔な男性と結婚するの」私は簡潔に言った。「意識がなくても、光さんは、あなたたち二人を合わせたよりも、よっぽど誠実な方よ」







