第5章ベビーブルードレス
【注意】この章には自死に関する主題、および首を吊った状態で死亡した人物の詳細な描写が含まれています。閲覧にはご注意ください。
――ベア――
看守たちはすぐさま動いた。ベアを部屋の中へ引きずり込み、扉を乱暴に閉める。
扉が開いた瞬間、主人のもとへ駆け寄ろうとした。けれど、手足はぴくりとも動かなかった。淡い水色のドレスの上に投げ出されたサヴォヌーの手に触れようとしても、それすら叶わない。どれほど命じても、身体のどこひとつ応えてくれない。ベアにはただ、看守たちが部屋の中を動き回るのを立ち尽くして見つめることしかできなかった。
そのうちの一人が、倒れていた椅子をつかみ上げ、その上に立って、サヴォヌーが首を吊るのに使ったシーツをほどいた。
ベアは、彼らがサヴォヌーの亡骸をベッドへ運ぶのを見ていた。光を失った死んだ瞳は、虚ろに天井を見上げたままだった。
「くそっ」
昨夜、食事を投げつけてきた看守が叫んだ。
二人はベッドの両側に立ち、彼女を見下ろしていた。
「なんでまた、自分で死ぬんだよ」もう一人が言った。そして短い沈黙のあと、「ランディ、俺たち終わったぞ!」
「くそっ!」とランディはまた吐き捨てた。
「どうすんだよ?」
「くそ」
「おまえ、それしか言えねえのか!? サヴォヌーを王子の城に届けられなきゃ、ヴィスカに喰われるぞ。いや、あいつがそうしなくても、アルファ様が何をするか分かったもんじゃない!」
「分かってる、ニック。だが……」そう言って、彼はサヴォヌーのほうへ手を投げ出した。
「くそ」今度はニックの番だった。
「せめて届けたあとで死んでくれてりゃよかったのによ。これで俺たちはおしまいだし、そのうえこの醜い雑種まで抱え込む羽目だ」二人は顔を見合わせ、それからベアのほうを向いた。「そうだ。この醜いちびの獣人もな」
二人がそろってこちらへ歩み寄ってくる。その瞬間、ベアの肺から息が抜け、目が大きく見開かれた。彼らの手が自分へ伸びてきた、そのとき――背後の扉からどん、と激しい音が響いた。
「中で何をしてる!? 何か壊したら、元ベータの懐から払わせるぞ!」くぐもった怒鳴り声が扉越しに聞こえてくる。
ランディはベアへ手を伸ばしたまま、にやりと笑って言った。「俺たちのささやかな遊びに加わりたいんじゃねえなら、とっとと失せろ」
廊下の向こうへ遠ざかっていく、さらにくぐもった声が聞こえた。ベアは扉を振り返ろうと首をめぐらせる。するとそのとき、ランディの手が頬に触れ、そのまま後頭部へ回って髪をひとつかみにつかんだ。
「醜いちびの獣人め」
ぐいと顔を引き寄せられる。彼の身体が押しつけられた。
「おまえの主人の一人は死んだ。冷たくなってな。おまえもあれと同じになりたいか?」
腹の奥がぎゅうっと縮み上がり、激しい痙攣のような痛みが身体を走った。筋肉は震え、制御もきかずにがたがたとふるえ始める。それでもベアは、かろうじて首を横に振った。髪をつかむ手のせいで頭皮に鋭い痛みが走っていても。
「だろうな。そんな気はしねえと思ったよ。じゃあ、どうする?」彼はさらに顔を寄せ、昨夜あおった酒と脂っこい食べ物の臭いを、ベアにまともに嗅がせた。「おまえ、まだ主人が一人残ってるんだろ?」
ベアは眉をひそめた。彼の言葉の意味を理解しようと、必死に考えた。
「ほんとにお前は愚かな野良犬だな? 言ってるのはお前の王子のことだ。俺たちはダックス王子に花嫁を連れてこいと命じられている。奥方の仲間入りをして冷たい屍を並べたくないなら、俺の言うことを一言も聞き漏らすな」
髪をつかんだまま、彼は彼女をサヴォンヌの遺体のところまで引きずっていき、顔を乱暴に押し伏せた。首元に浮いた痣が見えるように、そして彼女から立ちのぼる死臭が否応なく鼻を刺すように。
「今からお前はサヴォンヌ・デストランだ。父親はヴィスカ・デストラン――俺たちのアルファの元ベータ。母親はジュールズ・デストラン。お前は王子の城に着き次第、ダックス王子と結婚する。今この宿で起きたことには、一切触れるな」
彼はさらにサヴォンヌの顔へと押しつけ、彼女の鼻先が冷えきった頬に当たるまで近づけた。喉元までせり上がった吐瀉物を止められず、だが主人の美しい姿を汚したくなくて、彼女は必死に飲み下した。
「氷の貴婦人と並びたくないなら、俺たちの言うとおりにするんだ。いつやれと言ったら、いつ。どうやれと言ったら、どう。わかったか、小さな獣?」
彼女は頷いた――鼻がサヴォンヌの冷たい頬をかすめ、すぐさま後悔する。
ランディは彼女を立たせ、ゆっくりと指を髪から離した。一歩退いて、軽く頭を下げる。
「サヴォンヌ様、お着替えを。ダックス王子の城へ出発の支度をいたします」彼女の視線は、彼が手を上げてサヴォンヌの遺体を示すのを追った。
まさか。そんな……。彼女は息を詰めた。「ま、まさか……あの……あの人の……服を、私に着ろって……?」首だけをランディへ向け、答えを待つ。
彼の顔に吐き気を催す笑みが広がった。「もったいないだろ。使えるものは使う」
背筋に邪な震えが走る。
その瞬間、時間が指の隙間からこぼれ落ちたようだった。サヴォンヌのドレスを脱がせ、自分の薄い体に着せたことはわかっている。ドレスは体に合わず、芋袋みたいにだぶだぶと垂れたことも。衛兵たちがサヴォンヌの遺体を荷物に押し込み、担いで運び去ったことも。宿を出てからずっと、彼らが彼女を「サヴォンヌ様」と呼び、淑女のように扱ったことも。
自分の身体の外に放り出されたような感覚だった。誰か別の人間が歩き回り、生きているのを眺めているみたいに。口を開けば声は自分のものなのに、こぼれ出る言葉は他人のもののように思えた。
馬車が止まり、ここでようやく――ベアにとって時間が元に戻った。膝の上に重ねた自分の手を見下ろす。肌の色は主人よりずっと濃い。青い布地の上にサヴォンヌの手が置かれていた記憶が、閃光のように脳裏を刺した。ベアは座席に身を折り、えづいた。丸一日何も食べさせられていないせいで、胃には吐くものがない。それを喜ぶべきか、腹を立てるべきか、自分でもわからなかった。
馬車の扉が開き、手が差し入れられる。今朝の衛兵の言葉が蘇った。『氷の貴婦人と並べ』――その瞬間、腕に冷えが走る。
彼の手に自分の手を滑り込ませ、背後の景色を見た。巨大な白い城が空へとそそり立っている。ずらりと並ぶ使用人たち。その中央に、体の細い背の高い男が、身体にぴたりと沿う礼装を着て立っていた。
一団を離れ、その男が彼女へ歩み寄る。目の前で立ち止まると、頭を下げて言った。
「サヴォンヌ様」
