第8章 Beaとのバスタイム

ベアは掛け布団を持ち上げ、ダックスの脚を少しでも楽な位置に動かそうとした。その瞬間、部屋にずっと漂っていた腐ったような臭いが、真正面から顔面を殴りつけてきた。

気のせいなのか現実なのか判然としないが、そのあたりが妙に熱く感じられ、ねばついた味までした。むっとする体臭がいくつも混ざり合い、これまで嗅いだことのない種類の悪臭を作り出している。

ベアは思わず、シーツと掛け布団を彼の脚から乱暴に引き剝がし、ベッドの足元の板の向こうへ放り投げた。その動きで臭いはふわりと舞い、部屋の隅々まで広がってしまう。

彼女は長い袖で口元を覆い、カーテンへ駆け寄った。重い布を乱暴に窓から引き剝がす。まだ留める余裕などない。意識はテラスへ続く扉の掛け金に向いていた。

細い指がごつごつした金具をいじり、引っかけていた鉤から外すと、彼女はバルコニーの扉を押し開けた。新鮮な空気が顔と身体を切りつけるように流れ込み、背後の腐臭が蛇のように背中をすり抜けて外へ逃げていく。その感覚に、思わず身震いが走った。

ベアは急いで室内のほかの大きな窓二つにも向かい、黒いカーテンを押しのけて、外の冷たい空気を部屋に招き入れた。

「女神様……」ダックスのもとへ戻りながら、思わずそう漏れる。光が増したことで、彼の脚に沿って褥瘡がいくつもできているのが見えた。純粋な人狼の血が流れているなら、本来こうした傷は自然に治っていくはずだ。それなのに、絶え間ない損傷がついに追いついてきたのだろう。

傷の治りはもう以前ほど速くない。古い褥瘡の痕も、まだ色が戻らず変色したままだ。「ああ、女神様! ご主人様……いったい、何をされたの……!?」

レベッカに「市民としての務め」を命じられて、病人の世話に駆り出されたときに、彼女はこういうものを見たことがある。ダックスは定期的に体位を変え、入浴もさせるべきだ。介護の予定表を作らなくては、とベアは心の中で決めた。

彼の身体に震えが走り、ぶるぶると痙攣するように揺れた。ベアは悪態をつき、テラスの扉と二つの窓を慌てて閉め直し、それからダックスに掛け物をかけた。やるべき仕事がある。

王子に食事を与えたあと、彼女はさらに別の毛布を重ねて温め、部屋で必要なものを取りに行った。疲れ果てていたが、必要なものは一通り見つけられた。

彼女は前かがみになって膝に手をつき、背中を伸ばす。背骨が気持ちよくぱきりと鳴るのを聞いて、ようやく止めた。

やることは分かっている。だが、どこから手をつければいいのかが分からない。ベアは温い湯の入ったバケツと布切れを抱え、ダックスの枕元へ歩きながら自分を鼓舞した。「できる。だってあなたは私の夫。あなたの持つものは全部私のもの。身体だって……だから……これは、どこからどう見ても間違いじゃない」

彼女は毛布を下ろしたが、顔を見るのだけは避けた。頬へ熱が広がっていくのが分かる。鏡を見たら、きっと苺みたいに真っ赤だろう。

彼の上に身をかがめ、シーツや衛生用品を替える作業に取りかかった。手を動かしているうちに、ダックスに話しかけたい衝動が抑えきれなくなる。「ねえ、私がまだ小さな女の子だった頃は、シーツ替えなんてしたことなかったの。外の暮らしは、あなたの世界とは本当に違ってた。パパが家にいないときは、鶏たちと一緒に走り回って、好き勝手してた。パパがいると……まあ……お行儀よくしなきゃならなかったけどね」

ベアは笑い、ほんの一瞬だけダックスを見たあと、より厄介な場所を拭くために身体をずらした。細心の注意を払いながら、太腿の周りから臀部にかけてを清めていく。右の尻には、とりわけひどく炎症を起こした褥瘡がひとつあった。

「あなたって、みんなが言うほどやんちゃだったのかしら。ほんとうにベネヴィーを馬で泳いで渡ったの?」そこで彼女は顔を上げ、彼の顔に刻まれた皺がいくらか和らいでいるのに気づいた。けれど、彼が意識を向けていると示すような動きは何ひとつなかった。「あれって町の貯水池なんでしょう? どうしてそんなことをするの? あの別荘でも……火事が起きたとき……逃げるどころか、あなた、ただ座ってグラスのお酒を飲んでいた」

そこで彼女は口をつぐんだ。どこまで話していいのか、自分でもわからなかったのだ。けれど彼に向かって言葉を重ねれば重ねるほど、不思議と話しやすくなっていくのも確かだった。

ダックスの肌は、まともにこすられたり洗われたりしないまま何か月も過ぎていて、表面はかさつき、こびりついていた。膝の裏側はとくに菌の広がりがひどく、上に重なった古い皮膚を洗い落とすにも、彼女はそっと力を加減しなければならなかった。

火事の夜のことが、まだ頭から離れない。彼女は濡れて固まった布を手の中でぎゅっと絞った。またしても、言わずにはいられなかった。「あの夜、何があったのか知ってる。誰が火をつけたのかも。ヴィスカの家に仕えるようになってすぐ、そのことを伝えようとしたの。でも……信じてくれたのは、あの人の狼だけだった。あの夜、あなたは死んでいたはずよ」そこでほんの一瞬ためらってから、彼女は続けた。「アルファだって、そうだった」

煙の匂いと、あの混乱の物音が、また感覚の奥によみがえってくる。だから彼女は、それ以上話すのをやめた。

それからは、肌が赤くなりはじめるまでひたすらこすった。赤みが出ると、また別の場所へ移って、同じことを繰り返す。ようやく顔にたどり着いたとき、彼女は少し気恥ずかしくなった。そっと汚れと古い皮膚をぬぐっていくと、目のまわりを洗うたびにダックスが目を閉じるのが、何とはなしにわかった。長く黒い睫毛が伏せられ、その影が頬に美しい弧を描く。ふっくらした唇は動かなかったが、不快さにこわばっていた力は、もう抜けていた。

「ほんとうに……きれいな顔をしてる」

言った途端、彼女の顔はかっと熱くなり、目が大きく見開かれた。「いや、その……」彼女は言葉を切り、部屋の中を見回した。何か悪いことをしているような感覚が、いつでも胸の内に居座っている。彼女は少しだけ身をかがめ、囁くように言った。「自分が誰かの妻になるなんて、思ってもみなかった。こんなこと、喜んじゃいけないのはわかってる。でも……わたし、幸せなの。あなたはもう人生を味わえないのかもしれないけど、それでもわたしの人生は、あなたのおかげで生きる価値のあるものになってる」

広い自分の部屋のことを思い浮かべた。専用の浴槽のことも。二人で口にした、あのおいしい食事のことも思い出す。そして今、明るい青い瞳と整った顔立ちを見下ろしていると、こみ上げてくる笑いを止められなかった。

「それに、わたしはあなたが世話されるのを気に入ってるって信じることにしたの。見てなさい、まだ一日目なんだから」

彼女は窓の外に目をやった。空を渡っていた陽は、もう午後の半ばへ向かっていた。

「暗くなる前に市場まで行って帰ってこられるかしら? あなたの傷に塗る軟膏を買わなきゃ」

そう言って、彼女はダックスの全身を上から下まで見渡した。

まだ手がついていないのは、爪だけだった。足の爪は長く尖って伸び、深く曲がりながら下向きに巻いていた。手の爪も、ひどさは大差ない。彼女は先端をやすりで削り、足の指のあいだに生えはじめていた菌を洗い落とし、それから爪の生え際に油を塗って、今度は両手へ移った。

そして、そこで彼女の手が止まった。仕上げに油を塗り込み、手を揉みほぐしている最中、手の筋と筋肉が動いているのに気づいたのだ。勝手に。まるでダックスが、自分の指を動かそうとしているかのように。

彼女はさらに二分ほどその動きを見つめつづけ、ついに息をのんで叫んだ。

「あなた、まだそこにいるんでしょう!?」

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