第4章

山本翔視点

俺はその『介護記録』を一晩中ずっと睨みつけていた。

『翔さんは本当は美奈子さんを深く愛しているのだが、ただその表現方法を知らないだけだった』

その一文が、腹を殴られたように効いた。俺が彼女をただの都合のいい借金者の妹として扱っている間に、彼女は俺の本心を見抜いていたのだ。クソ、俺はなんて最低な野郎だ。

午前七時。階下に降りると、キッチンから穏やかな話し声が聞こえてきた。愛実が坂口さんとおばあさんの朝食について話している。その声はいつもより弾んでいた。

「ブルーベリー入りのオートミールは記憶力にいいんです」彼女は言っていた。「それに食感も柔らかいから、高齢の患者さんにはぴったりですよ」

俺は戸口で足を止め、キッチンを効率的に動き回る彼女の姿を眺めた。窓から差し込む朝日が彼女の髪を照らし、その光景はありえないほど温かく見えた。

『彼女は本当におばあさんのことを気にかけている。これはただの仕事じゃないんだ』

その考えに胸が締め付けられた。仕事に没頭し、おばあさんの介護に関する責任をすべて坂口さんに押し付けてきた長年を思う。そして、俺が借金の清算道具のように扱ってきたこの子は、たった数日で俺以上におばあさんのことを理解していた。

「翔さん?」愛実が俺に気づいた。「早いんですね」

「ああ」俺は咳払いをした。「今日はおばあさんの誕生日だ。何か……予定でもあるのか?」

彼女の目は、欲しかったプレゼントをもらった子供のように輝いた。

「ちょうど、ささやかなパーティーを開いてあげようと思ってたんです!」彼女は興奮したように言った。「大げさなものじゃなくて、飾り付けと、彼女が好きそうなケーキを用意するだけです。医療ファイルを確認したら、チョコレートケーキなら問題ないみたいで」

「好きにしろ」と言って立ち去ろうとしたが、彼女の瞳に浮かぶ熱意を見て、言葉が喉につかえた。

「準備、手伝う。その方が、おばあさんも喜ぶだろ」

愛実の目が、何か信じられないことでも言われたかのように見開かれた。

「本当ですか?でも……すごくお忙しいんじゃ……」

「土曜だ」俺はさりげなく装って肩をすくめた。「それに、おばあさんの誕生日だからな」

実のところ、最後におばあさんの誕生日を気にしたのがいつだったか思い出せなかった。その事実に自己嫌悪を覚えたが、同時に胸の内に奇妙な期待感がこみ上げてくるのも感じていた。

二時間後、俺たちはパーティー用品店にいた。愛実は楽しそうに飾り付けを選んでいる。

「ピンクと紫、どっちがいいでしょう?」彼女は二つの飾りテープを掲げた。「美奈子さんはどちらがお好きですかね?」

「君はどう思う?」俺は質問をはぐらかした。

「ピンクですね」彼女は迷いなく答えた。「昨日、一緒に写真を見ていたとき、ピンクのドレスを着ている写真でいつも手を止めていましたから。それに、お部屋にもピンクのスカーフがありますし」

彼女が真剣に風船の色を比べているのを眺めていると、胸に温かいものが広がった。彼女は本当に、細かいところまで見て、気に掛けているのだ。

『この家に温もりをもたらしているのは、彼女だ』

家に戻り、リビングの飾り付けを始めた。愛実が椅子の上に立って飾りテープを吊るし、俺が下から道具を手渡す。この共同作業というものが奇妙に感じられたが、悪くはなかった。

「もう少し左」俺は指示した。「いや、行き過ぎだ」

「もしかして、すごく神経質だったりします?」彼女はふざけたような文句を言いながら振り返った。

「完璧にしたいだけだ」

思っていたよりも、優しい響きの言葉が出た。クソ、いつから俺はパーティーの飾り付けが完璧かどうかなんて気にするようになったんだ?

そのとき、椅子がぐらついた。愛実が短い悲鳴を上げ、体が後ろに傾ぐ。とっさに、俺は彼女を捕まえた。彼女の背中が俺の胸に当たり、腕がその腰を抱きしめる形になった。

時間が、止まった。

髪からバニラシャンプーの香りがして、彼女の吐息がすぐ耳元にかかる。彼女の心臓が速く脈打っているのが分かった。俺の心臓も、同じくらい激しく鼓動していたからだ。

彼女が俺を見ようと振り返り、互いの顔が数センチの距離になった。彼女の瞳は美しかった――キャラメルのような甘い茶色い瞳が、今は驚きに見開かれている。

「ありがとうございます」彼女は震える声で囁いた。

彼女を離すべきだ。そう分かっているのに、腕が動かなかった。

「この家に温もりをもたらしたのは、君だ」自分の口からそんな言葉が出たことに驚いた。「おばあさんがあんなに嬉しそうにしてるのは、久しぶりに見た」

彼女は、俺たちが買ってきたピンクの風船みたいに真っ赤に顔を染めた。

「美奈子さんは素晴らしい方です。大切にされるべきですよ」

俺たちはまだ互いを見つめ合っていた。秒を追うごとに、場の空気は熱を帯びていく。彼女にキスしたらどんな感じがするだろう、なんてことを考え始めたその時――。

ドアベルが鳴った。

俺たちは、現場を押さえられた十代のように飛びのいた。愛実は椅子から飛び降りて髪を整え、俺は風船をいじっているふりをした。

坂口さんがドアに応対しに出ると、聞きたくもない声が耳に入ってきた。

継母の山本香蓮だった。高価そうなブランド服を着てリビングにずかずかと入ってくると、その視線はピンクの飾り付けをざっと撫でてから、愛実の上で止まった。その値踏みするような眼差しに、俺は不快感を覚えた。

「翔くん」香蓮は作り物の甘ったるい声で言った。「美奈子さんのお誕生日だから、会いに来てあげようと思って」

こいつがおばあさんの誕生日を覚えているわけがない。この突然の来訪は、間違いなく厄介ごとの前触れだ。

「本当に感動したわ」香蓮は部屋の飾り付けを見回しながら続けた。「翔くんはこういうこと、全然気にかけないもの。この……介護助手さんのおかげね」

「介護助手」という言葉には、あからさまな侮蔑が滲んでいた。愛実の表情が一瞬揺らぐのが見えたが、彼女はプロとしての笑みを崩さなかった。

「高橋愛実と申します」愛実は自己紹介した。「初めまして」

「あら、もちろん存じてるわ」香蓮は偽りの笑みを浮かべた。「ご家族の……ご事情、お聞きしてるわ。大変でしょうに」

その言葉に含まれた含意は、あまりにも明白だった。俺が口を挟むより早く、香蓮はすでに俺の方を向いていた。

「翔くん、少し二人で話せるかしら? 美奈子さんの医療体制についてよ」

「今はその時じゃない」俺は冷たく言った。

「でも、大事なことよ」香蓮は食い下がった。「それに、このお嬢さんも少し休憩が必要でしょうし」

彼女の視線が、一瞬、愛実の上を滑った。その捕食者のような眼差しに、俺の中の警報が鳴り響く。

俺が断る方法を考える前に、香蓮はすでに愛実に近づいていた。

「あなた、私の車から美奈子さんへのプレゼントを取ってきてくださる? 後部座席に置いてきちゃったの」

それが口実なのは明らかだったが、愛実は丁寧に頷いた。

「はい、かしこまりました」

彼女が出て行くと、香蓮はすぐさま俺に向き直った。

「翔くん、自分が何をしてるか分かってるの?」

「祖母の誕生日パーティーを開いてるだけだ」

「そういう意味じゃないのは分かってるでしょ」彼女の声が鋭くなった。「あの子はこの家にいるべき人間じゃないわ」

「君には関係ないことだ」

「関係なくなんかないわ!」彼女は声を荒げた。「私もこの家族の一員よ。美奈子さんの幸せを案じてるの。借金者の妹をここに住まわせるなんて。あなた、甘いわ」

胸の中で怒りが燃え上がるのを感じた。

「彼女は、君が何年もしてきたことより、よっぽどいい仕事をしてる」

香蓮の顔が険しくなったが、すぐに平静を取り繕った。

「あなたが利用されてるんじゃないかって心配なのよ。ああいう人たちは、被害者を演じるのがとても上手なんだから」

ちょうどその時、愛実が小さな箱を手に戻ってきた。

「香蓮様、お車の中にこちらが」

「ありがとう」香蓮は箱を受け取ると、突然愛実の手を掴んだ。「少し、二人でお話できるかしら?」

俺や愛実が返事をする間もなく、香蓮は彼女を庭の方へと引っ張っていった。

後を追いたかったが、そのタイミングでおばあさんが階下に降りてきた。

「翔!」部屋いっぱいの飾り付けを見て、彼女は目を輝かせた。「これ、全部あなたが準備してくれたの?」

「愛実さんがほとんど手伝ってくれたんだ」俺は、まだ庭の方を見ながら言った。

「本当にいい子ね」おばあさんはソファに腰を下ろした。「こんな風に誕生日を祝ってもらうなんて、本当に久しぶりだわ」

五分後、愛実が戻ってきた。顔は少し青ざめていたが、まだ微笑んでいた。

「準備は万端ですか?」彼女の声は普通に聞こえたが、その手が微かに震えているのに俺は気づいた。

香蓮に何を言われたのか聞きたかったが、おばあさんが興奮した様子で飾り付けについて話し始めた。タイミングが悪い。

前のチャプター
次のチャプター