第5章

高橋愛実視点

誕生日パーティーが終わり、山本家はいつもの静けさを取り戻していた。私はリビングで、飾り付けの最後の片付けをしていた。リボンからは、まだ微かにバニラの香りが漂ってくる。でも、私の心にこびりついて離れないのは、香蓮さんの突き刺すような視線だった。

『老人一人を介護したくらいで、身分不相応な夢を見ないことね。翔くんは、あなたなんかが手を出せる相手じゃないわ』

彼女の警告が、毒のように思考を巡る。自分が何者かなんて分かっている。ただの看護学生だ。住む世界が違うことも。だけど、さっきの翔の私を見る目……あの優しさは、今まで見たことのないものだった。

「愛実さん?」

背後か...

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