第105章

高橋隆一は酒杯を手に持ちながら、怒りを必死に抑えていた。

白石昌治はそんな様子に全く気づいていない様子で、真剣な表情で彼を見つめた。

「婚約はもう決まったことだろう。鈴木夏美のことがあっても破棄する気はないだろう?」

「安心して。彼女も私たちの家族の一員よ。見捨てたりしないわ」

藤原朝子も笑顔で相槌を打ち、白石知子を見る目は慈母そのものだった。

この二人は息ぴったりで、一見強制しているようには見えないが、実際には彼の拒否する言葉をすべて封じていた。

鈴木夏美が今、別荘で一人で隠れていることを思うと、高橋隆一の瞳が暗くなった。

あの事件さえなければ、絶対に白石知子と一緒になどなら...

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