第137章

高橋隆一は手にしたタバコの灰を灰皿に落とし、立ち上がって窓際へと歩み寄った。

「長尾家だって?」

どれほど業界の噂話に疎くても、長尾家は無視できないほどの名家だった。

田中健太は言いづらそうにしていたが、社長の性格を考えれば、奥様に関する情報は絶対に見逃さないだろう。

「長尾久行です。高橋社長は坊ちゃんの誕生日パーティーでお会いになったはずです。白いスーツを着た、あの子犬系の若い男性です」

船上の出来事を思い出し、高橋隆一の表情が曇った。

二十歳にも満たない長尾久行だが、随分と大胆なことをしでかした。自分の女に手を出すとは。

白石知子に利用されていたという事情がなければ、高橋隆...

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