第180章

鈴木夏美の心臓は喉元から飛び出しそうだった。

毛布越しでさえ、女性検査官の鋭い視線を感じることができるような気がした。

出ていけば正体が露見する。かといって姿を見せなければ特別な注目を浴びることになる。

鈴木夏美はため息をつき、ゆっくりと顔から毛布を引き下ろした。

二人は彼女の顔を見て、その場に立ち尽くした。長尾久行でさえ少し驚いた様子だった。

目の前の顔は彼が知っている姿とは全く異なり、中年女性の黝んだ顔つきをしていた。長年船上で暮らし、貨物運搬で生計を立てる中年女性のイメージにぴったりだった。

彼は目の前の人物が鈴木夏美だと知っていても、この顔に対して何の疑いも抱かないだろう...

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