第349章 俺は高橋隆一、お前の夫だ

幾人もの影が脳裏を走馬灯のように駆け巡り、鈴木夏美の奥底で、とうに忘れ去られていた記憶が鮮明に蘇った。

薄暗い路地裏。血まみれで倒れている一人の少年。幼い鈴木夏美は彼を見つけ、訝しげに歩み寄った。

「どうしたの?」

小さな鈴木夏美は恐る恐る、様子を窺うように少年の額に手を触れた。

額はひどく熱かった。散々迷った挙句、彼女は乳母に頼んでその子を連れ帰ることにした。

三日間の看病で少年の病状は大方良くなったが、ある日の午後、彼は忽然と姿を消した。

人助けなど珍しくなかった鈴木夏美にとって、その記憶はいつしか脳の片隅に追いやられていたのだ。

あの時救った少年こそが、高橋隆一だったという...

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