第358章 君に光を返す

鈴木夏美はスピーチの原稿に目を通したばかりで、心の準備も整わないまま、高橋隆一に手を引かれて壇上へと連れ出された。

スポットライトが眩しい。客席から湧き上がる歓声を耳にしながら、彼女はどこか現実味のない浮遊感を覚えていた。

マイクを握る高橋隆一は、舞台上の光を一身に浴びている。その姿は、生まれながらにして人の上に立つ支配者の風格を漂わせていた。

思わず横顔を盗み見る。すっと通った鼻筋が目に入った瞬間、胸の鼓動が早鐘を打った。

「映画『雨音』の授賞式に参加でき、光栄に思います。本作の筆頭出資者として、また公益基金の投資家として、皆様にはぜひ私の妻に注目していただきたい」

刹那、すべて...

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