第423章 治療放棄

「鈴木夏美のスマホを持ってこい。彼に連絡をとってみるんだ」

 希望があることは良いことだ。だが、高橋隆一の精神状態は明らかに狂気の淵に立たされていた。

 たとえ長尾久行と連絡がついたとしても、彼が今の状況を打開できる保証などどこにもない。

 栗原伸昭は彼の必死な姿に水を差すのをためらいつつも、意を決して口を開いた。

「高橋社長、最悪の事態を覚悟しておいてください。奥様の癌細胞は凄まじい勢いで転移しています。癌による副作用も相まって、その時まで体力が持たない可能性が高いのです」

 高橋隆一はそんな言葉など聞きたくなかった。しかし、栗原伸昭の言葉が紛れもない現実であることは、彼自身が一番よ...

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