第54章

トイレの中から返事が聞こえたので、高橋隆一はこれ以上考えることなく、トイレのドアから離れ、このコンパクトなアパートを見回し始めた。

高橋家の実家と比べれば、このアパートの広さは比較にならないほど狭かったが、意外と温かみのある雰囲気に整えられていた。

壁には数枚の絵が掛けられていた。鈴木夏美が暇つぶしに描いたものだ。表現力が素晴らしくて綺麗な絵だった。

部屋の中のすべてが、鈴木夏美と関係していた。

寝室には大きなベッドが置かれ、ゲストルームに入ると、中はあまり物がなく、そのベビーベッドが目立つ場所に置かれていた。

離婚の際、鈴木夏美は何も要求せず、ただ二人の婚家からこのベビーベッドだ...

ログインして続きを読む