第55章

自分の接近は小林家に災いをもたらすだけでなく、鈴木夏美を刺す刃ともなるだろう。

彼は苦しげに目を閉じた。

「わかっている。父さんの言う通りにする。海外への手続きを頼む」

電話の向こうで何を言われたのか、よく聞き取れなかった。

ただ一つ分かっていたのは、ここを離れれば、彼の生活はこの地と完全に終止符を打つということだった。

ようやく日常が戻りつつあった鈴木夏美は、毎日病院に足を運んでいた。

鈴木純平の状態は安定していたものの、いつ発作が起きてもおかしくなく、潜在的なリスクは排除できないままだった。

おばさんが鈴木純平の顔を拭いているところに、鈴木夏美が手拭いを受け取った。

「先...

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