第81章

梅津智史はもう何か言いかけたが、自分から言うべきではないと気づき、結局は沈黙した。

「あの狂人を敵に回さないほうがいいわよ」鈴木夏美の声は軽やかだった。

「あなたたちが欲しいものは、私が提供するから」

梅津智史は二人の関係を理解しかねているようだった。

「君と彼の間には、まだ愛情があるのか?」

その質問を、鈴木夏美は何度も自分に問いかけてきた。だが最後には答えが出ず、ただ自分を納得させるしかなかった。

「愛も憎しみも大したことじゃない。私たちは運命に縛られているだけよ」

潮風の塩辛い香りを感じながら、鈴木夏美の心はこの瞬間、不思議なほど静かだった。

「自分の死後、安らかに眠れ...

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