第82章

鈴木夏美は一歩一歩と遠ざかりながら、名残惜しそうに振り返った。

高橋隆一の息子は、結局高橋家に戻るべきなのだ。彼女と一緒に島で暮らし続けることなど不可能だった。

鈴木夏美の急ぎ足を見て、高橋信也はようやく何かがおかしいと気づき、大声で叫んだ。

「ママ!」

短い足で走ろうとしたが、雪があまりにも深く、高橋信也は足を取られて地面に倒れ込み、わんわん泣き出した。

ママが行ってしまった。おまけに冷たい雪を口いっぱいに頬張ってしまった。

泣き声はますます大きくなり、買い物に出ていた池永さんがその声に引き寄せられてきた。

地面に伏せている子を見て、どこかで見覚えがあると感じた彼女は、よく見...

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