第87章

こんな見栄の張り合いは子供じみて滑稽だ。

鈴木夏美が振り払う間もなく、背後から小さな子供の声が聞こえた。

「ママ!」

さっきまであちこち這い回っていた髙橋信也が、この時駆け寄ってきた。

「ちっ、勝手に走り回るな」本来は緊迫した対峙の場面だったが、高橋隆一はかがみ込んで、あちこち歩き回る信也を抱え上げ、田中健太に手渡した。

「信也から目を離すな。外に出さないように」

周囲には軍艦や飛行機があり、この連中は銃も持っている。

子供を遠ざけてから、高橋隆一は腕の中の女を見つめた。

「彼に死んでほしいのか?」

鈴木夏美は首を振った。

「無実の人を殺めないで」

「なぜだめなんだ?」...

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