第92章

これは二人にとって珍しくも温かな時間だった。高橋隆一はまるで全ての防備を解いたかのように、静かに彼女の隣に横たわっていた。

目を覚ましていなければまだ良かったのに。一度栗原幸夫の話したことを思い出すと、鈴木夏美は心が乱れ、ますます眠れなくなった。

隣の人が動かなくなったのを確認し、鈴木夏美はそっと彼の手を外した。

起き上がってコートを羽織ると、書斎へ向かった。

あの日二人が言い争った時、彼女は恐怖で胸がいっぱいで、あの人たちの資料をちゃんと確認する勇気がなかった。今こそ絶好の機会だった。

書斎のドアには鍵がかかっておらず、簡単に開いた。

そうだ、この別荘には自分以外誰もいないのだ...

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