第80章

安井綺世は無言のまま、外で待ち続けていた。扉の向こうからは時折、くぐもった話し声が漏れ聞こえてくる。

執事が鞭を携えて書斎に入っていくのを目にしても、彼女の表情は微動だにしなかった。ただ冷ややかに、静寂の中で時が過ぎるのを待つだけだ。

中から断続的に響く相馬老人の激昂した怒鳴り声も、もはや彼女の心にさざ波ひとつ立てることはない。

以前の彼女なら、こんな状況に置かれた自分の不甲斐なさを嘆いたかもしれない。

だが今となっては、冷ややかな傍観者としての感情以外、何も残っていなかった。

完全に愛想を尽かした相手が何をしようと、心が揺れ動くはずもないのだ。

それに……。

安井綺世は、相馬...

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