第84章

宴会場の共用トイレなのだから、誰かが入ってきても不思議ではない。

外から足音が近づき、話し声も聞こえてくると、安井綺世は嘲るような視線を相馬千冬に向けた。

「ここは女子トイレよ。相馬社長はまだ帰らないの? 私たちがいちゃついているところを、みんなに見せつけたいわけ?」

そう言っている間にも、すでに誰かが入ってくる気配がした。

綺世は、千冬がここに残って誰に見られようと知ったことではないとばかりに、踵を返して自分だけ先に立ち去ろうとした。

だがその瞬間、手首を千冬に強く引かれた。

不意を突かれ、二人の位置が反転する。綺世は千冬の懐に押し付けられる形になった。

二人の距離が一瞬にし...

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