第85章

宴もたけなわにはまだ早いが、安井綺世と辻本修一は並んで立ち、行き交う賓客たちの応対を続けていた。

「会社のため」というのは、決して建前ではない。

二人とも帰国して日が浅い。辻本修一の知名度は十分とはいえ、安井綺世はあまりに長く国内を離れていたため、多くの人脈を一から築き直す必要があったのだ。

本来、彼女はこうした煌びやかな場を好まない。だが、ここでの立ち回り次第で仕事に有益な人脈が広がる可能性があれば、無碍にはできないことも理解していた。

ならば、既来之則安之(来たるからは則ち安んず、覚悟を決めて順応するのみ)である。彼女は絶えず淡々とした微笑を浮かべ、相手と穏やかなトーンで言葉を交...

ログインして続きを読む