第86章

安井綺世は走る車の中で、じりじりとした焦燥感に苛まれていた。

理屈の上では、自分と相馬千冬はもう赤の他人だということを理解している。

たとえ相馬千冬が誰かに嵌められたとしても、助ける義理もなければ、見捨てたところで誰に責められる筋合いもない。二人の情愛など、とうの昔に枯れ果てているのだから。

「これは、あくまで相馬家の会社のため」

安井綺世は心の中でそう言い聞かせた。

もし今回の件で相馬千冬が失態を演じれば、最も打撃を受けるのは相馬グループの株価だ。そうなれば、相馬祖父まで心労を重ねることになる。

自分の子供たちは、あんなにも相馬祖父を慕っている。

その一点においてのみ、彼女は...

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