第94章

安井綺世は病院の入り口で相馬千冬と言い争った後、そのまま会社へ戻って業務を再開した。

同僚たちから辻本修一の容態を尋ねられても、彼女はありのままに答えた。辻本修一の怪我は大したことはなく、すぐに戻ってくるはずだと。

案の定、その日の午後には辻本修一が出社してきた。

二人とも病院での出来事には一切触れず、示し合わせたように黙々と仕事をこなした。

そして定時を迎え、安井綺世がパソコンを閉じて立ち上がり、周囲に挨拶をして退社しようとしたときのことだ。オフィスの外で、彼女は辻本修一と鉢合わせた。

彼は仕立ての良いスーツに身を包んでいた。顔色がわずかに蒼白であること以外、大きな負傷は見当たら...

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